2014年11月17日

【海峡を越えたホームラン】 -ノンフィクションを直視せよ-

「光と影」という今年9月放送されたドキュメンタリー番組に、日ハム・斎藤佑樹(26)が出演、番組の中で取りあげられた。


シーズン中、あるいは“現役中”であるのにも関わらず‥といった意見もわりと多かったようだが、それについては私自身は問題ないと思う。ただ、残念ながら肝心の内容が今ひとつだった。田中将大の話や高校時代の栄光---これまで散々語りつくされてきた事柄を、またほじくり返される。

右肩関節唇損傷の重傷から2シーズンぶりの白星をあげた「奇跡の道のり」らしきものにスポットを当ててくれると思っていた私としては、正直ガッカリな内容であった。仮に聞き手があのような著名人でなければ、斎藤だって怒っていたかもしれない。“持ってる”なんて『言わなきゃ良かったですね』と苦笑しながら口にしていた斎藤‥。結局、制作側が引き出したかったのは彼からのそんな類の言葉だ。


関川夏央著【海峡を越えたホームラン】で描かれる「光と影」具合はもっと凄まじい。KBO(韓国球界)黎明期にいた、数人の日本人選手を追ったノンフィクション本であるが、本の中に福士敬章(ふくし・ひろあき)という選手が登場してくる。韓国名、張明夫。以前は広島カープに在籍し、二桁勝利をあげた経験もある彼は、当然のように韓国の選手の格のちがいを見せつけて渡韓初年度から30勝。しかし、2年後には25敗という(2014年現在でもともにKBO記録)、これまた信じられないような成績を残す。

この“落差”もさることながら、「文庫版あとがき」で触れられている福士の生活ぶりは更にショッキングだった。まがりなりにも韓国でスーパースターであった彼が、電話代も払えぬほど晩年は生活に困窮していたのだという。本書では二軍の投手コーチに就任するところで物語は幕を閉じ、未来ある形で終えてはいるけれども、数年後に日本で亡くなった。




ハムOBでもある、宇田東植のエピソードも多数。宇田氏はヘテ・タイガースに所属し、一年目から韓国一に貢献した。日本での解説者時代、いかにも温厚そうな語り口が印象的だったが、実際には相当熱いヒトであったようだ。その宇田氏が「ブチ切れ」してしまった、ある事件。シーズン中でありながら日本に帰国する“タブー”を冒したのは、二年目の春...

福士、宇田両投手より一年あとに韓国へやってきた石山一秀。飯山裕志がプロ13年目で初本塁打を放った際に、しきりにこの名前を耳にした(石山氏は同14年目で初)。異国の地で苦闘する日本人選手の話が続くなか、石山の「家族愛」についての項は、本書では決して多くはない“光”といっていいだろう。‥ちなみに著者によると彼は頭も“光って”いたそうだ。


国がちがうとはいえ、野球界でこれほど生々しい実録本を読んだのは初めて。野球そのものにはかんしては明るくないと云っている著者が、“野球選手”としてではなく、特異な環境に身を置く彼らを、ひとりの人間として追っていたからだと思う。だから選手の方も心を割って話してくれたのかも知れない。

野球に精通している作家たちが書くそれとは明らかにテイストが違っていた。まさに「ヒューマンドキュメント」と呼ぶに相応しい一冊。


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posted by 羽夢 at 19:47| Comment(2) | TrackBack(0) | FSコラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
関川夏央著の「海峡を越えたホームラン」私も読んで感動しました。
何も知らない文化を持った国と野球をする、そして在日選手の中途半端な位置関係、祖国とは、この本は言いたいことがたくさんあります。
何回読んでも感動し、泣けてきますね。この本は1988年7月に出版されました。
松原明夫こと張明夫、宇田東植こと朱東植はそれぞれに韓国時代では辛いことが多かったと思います。
石山選手は、薄い頭髪らしいですが「愛する妻へ」は感動ものです。
大本選手の「ホームベース上の微笑」も感動です。

日本のプロ野球でダメだから、韓国、台湾へ行って野球をするなんて大間違い、その前に人間として生きて行くことが大事なんだと。

ヨウやノグリはこの本で覚えました。

在日選手とスポーツの本は下記の通りあります。
「いつの日か海峡を越えて」郭仁和 文藝春秋
「ぼくと野球と糖尿病」新浦寿夫 文藝春秋
「甲子園の異邦人」金賛ジョン 講談社
「誇り 人間張本勲」山本徹美 講談社
「反骨イズム 長州力 光と影」辻義就 アミューズブックス
 
またコメントさせてください。


Posted by 海 at 2014年11月19日 10:48
>海さん

反応が遅くなり申し訳ありません。
ほう、ご紹介頂いたそれらの本はたいへん気になりますね。特に新浦投手の件は「海峡を越えた」の中でも触れられていていましたので、機会がありましたら読んでみます。

>>何回読んでも感動し、泣けてきますね。

えぇ、最高でした。今年はやたら良書と巡りあいます。野球ものにおいては本書と「スカウト」が◎。良いノンフィクション本がありましたら、また是非教えて頂ければと思います。貴重な情報ありがとうございました。
Posted by 羽夢 at 2014年11月21日 09:49
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