2014年10月26日

【スカウト】 -ノンフィクションを直視せよ-

中島卓也は近来稀にみる「最高傑作」であったかもしれない...


ほとんど無名に近かった福岡工業高時代。プロチームから彼の元へ届けられた調査書は、たったの1球団。※1 その球団こそがハムだった。今や正二塁手となった中島を見出したのが、岩井隆之スカウト。岩井氏からしてみれば、まさに“冥利”に尽きる獲得劇であったといえよう。

昨年のドラフト時、「スカウト」という職種がにわかに脚光を浴びる。九州共立大の大瀬良大地に密着していた田村恵スカウトがクジを引き当てたときだ。あの感激な表情は記憶に新しいところだが、スカウトとは普段どのような活動をしているのだろう---。好奇心が湧いた。


関連書物をあさっているうちに、タイトルがそのままズバリの「スカウト」に出合う。作家の後藤正治氏が3年間にわたり、『スカウトの神様』と謳われた木庭教(きにわ・さとし)氏に同行して書きあげた本。この書物には驚愕した...




裏表紙にはこう記してある。

広島カープの黄金時代を演出し、のち大洋、オリックス、日ハムに大器を送りだした男、木庭教。才能ある選手を求め、四十年にわたって日本全国を歩き回ったその足跡は、そのまま戦後のプロ野球史である。球界を支える≪影の男たち≫=スカウトの哀歓にスポットライトをあてた傑作ノンフィクション


『カープの黄金時代を演出』に嘘偽りない。本を読み進めていけば、それがたしかな“事実”であったことがよく判る。衣笠祥雄、池谷公二郎、高橋慶彦、正田耕三、川口和久、大野豊‥‥。彼らは木庭氏が担当した選手たちで、いずれもアマチュア時代に特別注目をされていたわけでもない。まずその「眼力」に驚かされた。

上記の選手であれば川口のは「ドラフト裏話」、大野豊のプロ入りにまつわるエピソードの特異性、正田や長嶋清幸への「交渉術」もたいへん興味深いものであった。

手がけた選手がすべてプロの世界で成功したのか、といえばもちろんそんなことはなく、芽が出ずにひっそりと球界から離れていった選手の話もある。『スカウト人生で最大の失敗』と云いきった投手がいたり、個人的には箕島高から入った“ドライチ”、杉本正志の項が印象に残っている。


スカウト人生のうちの3/4を広島で過ごしたので、自ずとその時代の話は多くなるが「紹介文」にもある通り、晩年はハムで選手発掘にあたった。当時の上田利治監督から頼まれたのだ。著者が木庭氏に同行したのはちょうどこの期間。したがって1995年から1997年までの間に紙上を賑わせていたアマチュア選手の名が数多く登場してくる。

南京都の斉藤和巳(→ダイエー)や東京学館の石井弘寿(→ヤクルト)を重点的にマークしていた話。チームの補強ポイントと合致せずに指名は見送られたのだが、のちのプロでの活躍をみれば何ともハムにとって惜しまれる話だ。

それでも目をつけていた選手がたとえ他チームであっても成績を残してくれれば、スカウトは嬉しいと感じる。自分の目に狂いがなかったことを立証できるからだ。オリックスで担当した牧野塁がプロ初勝利をあげた際は、傍にいたスカウトたち全員で木庭氏を祝福していたエピソードは泣ける。


ドラフトは数年経ってからでないと本当の評価は判らないといわれる。本書がまさに十数年前のアマチュア選手について触れているため、「真実」が判ってしまうのが良くも、少し物悲しくもある。

たとえば今でも現役でいる福留孝介、能見篤史(ともに阪神)の高校時代のときの見方は極めて“その後”に当てはめられるものだったし、巨人・近鉄の小野仁や中日にいた幕田賢治への、いささか「負」の見解も、これまた符合している。木庭氏の『神』たる所以が、なんとなくだけど判るような気もした。


‥氏は2008年に81歳で他界。ハムで遺してくれた最大の“ヒット作”であり、現代版「中島卓也」は、同じく中央球界ではまったくの無名といってよかった捕手の高橋信二か。岡山の津山工業へは視察にも行った。この度オリックスをプロ二度目の自由契約となったとか。だんだん少なくなってきている「スカウトの神」に見込まれた選手。まだまだ天国にいる“恩人”を喜ばせてあげてほしい。

※1.週刊 ベースボール 2014年 10/27号より

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posted by 羽夢 at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | FSコラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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