終盤7回。4点をリードし、すでに勝ちパターンの継投に入っている。1塁に走者がいたとはいえ、すでにツーアウト。比較的落ち着いて観られる場面で、かつ「現役最終打席」となる可能性もあった男の姿を見届けられる‥‥そうした余裕も無論、選手にはなかっただろうが、相手側のファンの心理にはあったのかも知れない。
スタジアムの空気を一変させたのは稲葉ヒット後の、大野奨太だった。痛烈にセンターへ弾き返した打球。中堅手がダイビングキャッチを試みるがわずかに及ばず、2点タイムリー。ハムがにわかに反撃の狼煙を上あげた...
大野のバットから当たりが止まらない。おもえばファーストステージ初戦で大エース・金子千尋から技ありのタイムリーを右に放っていた。CS全体をとおして攻撃面での「口火」をきってくれたのが、彼だったのである。
同じ捕手の市川友也の台頭もあり、終盤の戦いに入ってからは心置きなく代えさせられる、稲葉らの“代打枠”。だが、今はその枠が消滅してしまった。もっともボールがみえている打者は中田でもなく、大野なのではないか。もうあとがなくなった試合で5打数4安打。凡退した打席のショートへのゴロも、しっかりととらえていた打球ではあった。背番号「2」が乗っている。
ソフトバンクに日本シリーズ進出王手をかけられ、負ければ今季の終焉を意味する、ファイナルS第5戦。試合後に栗山監督は『粘り強い日本ハムらしい戦い方』と評していたが、その戦いに終止符を打ったのが中島卓也。延長11回に訪れた2死満塁という局面---
【ただ、バットに当ててくれ。当てさせすれば何かが起きる】 そう願っていた私は彼に謝らなければならない。サファテの剛球を力強く、右へ運ぶ中島の姿はイメージできなかった。ハムの若手選手たちは、このしびれるような大舞台を機にして、ますます進化を遂げていっている。稲葉篤紀の『このチーム、これからどんなチームになっていくのかな。すごく楽しみ』※1 の言葉にもそれがよく表れていた。
「進化」といえば先発好投をした、大谷翔平にも触れなくてはなるまい。得意の速球だけに頼らず、3回以降は変化球を軸にした投球。技術的なものはともかくとして、ここにきて感じることは本当に「勝負師」の顔になった。心身両面で逞しさが一層増した。昨年までの大谷とはぜんぜん違う。私やハムファンだけにとどまらず、全国のプロ野球ファンにも彼の成長した姿を是非、日本シリーズでも観てもらいたい‥ と思うのだが、今はまだやめておこう。
文字どおり雌雄を決する運命の一戦。「稲葉さんと誠さんを北海道に連れて帰る」 選手たちの秘めた想いはみんなの願いでもある。健闘を祈る---
※1.球団公式サイト【ゲームレポート】より